広い部屋で本を読む。
 続きのない本だと友が言った。
 それでもいいのだと僕は言った。
 時間を潰せればいいのだと。
 真夏の暑くるしい日。
 僕は一人で本を読んでいた。

「あー! やってられっか!!!」

 ポニーテールが揺れた。
 暑さで苛立ってたのだろうなと思う。
 あいつは熱いのが嫌いだからと。

「なんでこんなことしなきゃなんねーんだっ」
「溜め込んだルイが悪いんでしょ」

 ジュースを飲んでたもう一人が呆れてる。
 僕は本を閉じて、ゆっくりと立ち上がった。
 ニコニコニコニコ笑うだけ。

「オレばっかいじめんなよ」
「つか、僕も巻き込まれただけだよね〜?
 僕は一ヶ月前には全部終わらせといたしぃ?」
「うっ……」

 時々思う。
 僕は笑ってるつもりだけど笑ってないんじゃないかって。
 だからこんな反応が返ってくるんじゃないかって。
 実際は知らないけど。
 だって僕は僕だし。
 僕は僕のこと知らないし。

「ま〜僕はもちっとこの本読んでるよん?
 けっこう面白いんだよねぇ、勇者と魔王の関係が僕好みで」
「ユウが気に入るってことは濃い話ね」
「ゲンの言うと〜りだよん。濃い濃い、めちゃ濃い♪」

 ぱらぱらとページを捲る。
 腐れ縁の勇者と魔王。
 光と闇。
 こういったものが大好き。

「日常でも起きたら楽しいよね……」

 神様が飼い犬に降りて冒険の始まり。


 これが僕たちの始まりだよ。
 終わりまでどうなるか見ていてごらん。
 勇者と魔王の行く末も僕たちが知ってるんだ。

 始まるよ、過去が始まるよ。