「僕は勇者。お前は?」

 影は答える。

「君は勇者、僕は魔王」

 笑う、金の双眸。
 なんて美しい姿だろうか。
 全てを呑み込む闇色の髪に金色の眼差し。
 美という美を身に纏った年若い魔王は微笑む。

「勇者よ、待っていたよ。君が来るのを、ずっとずっとね」

 それが何を意味するかは分からない。
 ただその手に抱えられた人間の頭蓋に彼の正気は最早
失われてしまったのだと悟る。
 微笑む金の眼差しを仰ぐ。

「待たせたようだな。僕は勇者、お前は魔王。
 戦って勝利するのは僕だ。お前は死ぬだけ、滅びるだけ」

「あぁそうとも。僕は滅びるために魔王になった。
 君が僕を滅ぼすんだ勇者。なんて素敵なことだろうね」

 頭蓋を抱き締める。
 まるで愛しい人のように。
 勇者は顔を顰めた。
 携えた白銀の剣が煌く。

「お前はいつもそうだな魔王。
 僕たちが子供のときからいつもそうだった」

「君はいつもそうだね勇者。
 僕たちが子供のときからいつもそう、そう」

 笑う金の双眸。
 笑う赤の唇。
 よく似た二人の視線がぶつかる。
 戦いの火蓋を切って落とすのは、くだける音。
 魔王の腕から逃れた頭蓋が砕け散る哀しい響き。

「お前との腐れ縁なんて終わらせてやるよ」

「できるものならすればいいよ。
 勇者――うん、勇者」

 金の双眸が笑っていた。
 過去のすべてを知ってる眼差しが嘲笑っていた。


 始まりは過去。
 終わりは現在。
 物語は未来へ。