「残念な結果になったな」

 神は言う。
 失われた命を想い、涙する神はなく。
 淡々と歪んだ勇者を見据えていた。

「しかしこれで本当に――」
「まだ終わってないわ」
「ユウがいねーと、クリアになんねーよ」

 ノーマルエンドが見たいのではない。
 トゥルーエンドが見たい。
 せっかく始まったのだから。
 三人で出かけ、三人で帰る。
 また、あの日常へと戻るのだ。

「だがユウはすでに」
「方法なんていくらでもあるじゃない」
「オレたちにだけ効く蘇生アイテムとかな」
「お前っ! 全部返せと言っただろう」
「うるさいわよ犬」
「今は犬ではないわっ」

 喧々囂々。
 騒がしい中で一枚の紙を掲げる。
 これは切符なのだと思った。
 日常へ帰るための切符。
 片道分の、切符。
 後は日常を三人で生きていく、
 そのために必要なのだ。

「ユウは歪みだ。
 また暴走しないとも限らない、そのときにお前たちは――」
「最初から……最初から、ユウは暴走なんてしてなかったわ」
「だがルイに牙をむいたではないか」
「あれは違う。
 あれは――――」

 ユウが絶望していたこと。
 ユウが歪みに蝕まれていたこと。
 これは本当のこと。
 だが、暴走なんてしていない。
 ユウは魔王ではない。
 そうでなければ今頃。

「ゲン一人でユウに勝てるとは思わねーしな」
「ユウは日常に帰りたくなかったのよ。きっと」

 神は首をかしげる。

「それはなぜだ」

 人の子は神が分からぬ問題を至極簡単なことだと言う。

「私たちが成長していくからよ」
「受験生だからな」

 二人が笑う。
 互いに手を取り合い。

「これは私の決めた未来。
 誰にも否定はさせないわ」
「これはオレの決めた選択。
 誰も否定なんてさせねーからな」

 幻想の欠片である切符を天へと解き放つ。
 純白の羽が舞い散る空。
 羽が積もり、白い山が出来上がり。
 そこに横たわる友の肉体。
 まるで眠っているだけのようなその頬へと手を伸ばし。

「おかえり……ユウ」

 今にも泣き出しそうなほどに優しい声で微笑んだ。