立ち向かう絶望。
 待ち受ける希望。

 二つ。

 赤と青の双眸見据え合う。

 笑う。
 笑う。
 お互いに。
 笑う。

 それは酷く歪な友情にも思えた。

「ユウ。あなたは何がしたいの」
「簡単すぎて答えを言う気が起きないよ?」

 死神の大鎌。
 鉄の匂いを帯びて宙を泳ぐ。

「ルイを傷つけてまで何がほしいの」

 インクの付着していない真っ白な筆が弧を描いた。
 浮かび上がるのは堅固なる盾。
 大鎌を受け止め、弾き飛ばす。
 投げ出された肢体は重力にすら逆らう。

「だからさぁ?」

 笑うのは真紅の双眸。
 絶望の色。

「僕はね……」

 再び振り上げる。
 ぴちゃりと跳ねた水音が答えをかき消した。

「――そういうことなの」
「うん。そういうことなの」

 砕ける大鎌。
 勝機が見えた。

「ユウ……あなたは……」

 翳す両手。
 笑う絶望。
 口の端から赤を零して。
 細めた赤の双眸は涙を忘れる。

「僕は勇者ってガラじゃないしね?
 終わりにしたかったんだよねぇ
 ……こんなぐだぐだした頭ごと、全部」
「それはルイを巻き込んだ理由にはならない」
「知ってるよん。
 ルイはねぇ……」

 断罪の光。
 神々が発するそれと酷似する希望。
 強すぎる希望に焼かれる絶望は笑う。
 両手を振って。
 まるで帰路で分かれる友のように。

「僕の友達だからね。
 僕が消えるなら、一緒にって思ったんだけどなぁ〜」
「……私は」
「君? 君はね、希望だからダメ。
 ルイは揺れてたから、こっちに来て欲しかったんだけどなぁ」

 焼けて、溶けて。
 やがてその姿を失う絶望。
 歪みに呑まれた生物は例外なく死する。
 たとえ開放されたとしても。
 その命は蝕まれ、病んで、疲れ果ててしまう。
 苦しみを味わう前に。
 希望の青が潤んでいた。

「さよならは言わないわ」
「僕は裏切りモノなのに?」
「だってあなたは――」

 姿が消えた。
 残るのは砕け大鎌の破片のみ。
 まるで存在していたこと自体が夢であったような感覚。
 ゲンの手に握られる鉄のかけら。
 胸に抱いてささやいた。

「あなたは……ルイを連れて行こうとしたけれど、
 命を奪ってまで連れて行こうとはしなかったじゃない……!」

 血の海が消える。
 身を起こす狭間はけだるげに。
 自らの身に起きた異変に首をかしげる。

「オレ……死んだと」
「ほんとに……悪戯が好きなんだから……ユウ」

 私たちの、友達。