倒れた友達。
 本では倒れた姫君。
 血の海。
 涙の地。
 二人の間で揺れて。
 振り子のように。
 そして壊れる。

「あぁぁあああああああああああああ。
 やっちゃったよ。やっちゃったあぁぁあ」

 血の海で倒れる友達を抱き上げる。

「やっちゃったよ。アハハハハァアア。
 ルイが死んじゃったぁ? 死んだぁ、アハハハハ」

 動かない友達。
 呆然と立ち尽くす友達。
 言葉をなくすのは神々。
 血に染まったヒトが一人。
 死に染まったヒトが一人。

「ユウ……なんという……ことを……?」

 死神の大鎌。
 魔王の吐息。
 死の芳香はすべてを包み込んで。

「仲間が裏切って誰かが死んで、そうして勇者は戦う力を
手に入れるんだよ。
 そうだと思わないかい? ゲン」
「思わないわ」

 ニコニコと笑う。
 抱きしめて。
 愛しく血液に口付ける。
 まるで原初からあった恋人同士のように。

「思ってよう。そうしないとルイが死んだ意味がなくなるよ?」

 濁った眼差しが絶望に染まる。

「思わないわ。だって私はそんなことをしなくても強いもの」

 澄んだ眼差しが希望に染まる。
 死の海に沈む友達を挟んで二人は見据える。
 その先にあるものを。
 その過去にあったものを。

「……僕は魔王」
「私は勇者、と言えば満足なの」

 始まる物語。
 終わる物語。
 僕らの終わり方はバッドでいい。
 未来なんていらない。
 現在で終わればそれでいいじゃないか。
 過去と現在があれば事足りる。


 終わろう。
 赤い絶望の渦に。