しとしとと降り止まぬ雨の中で佇む、少年の面影を残した彼は濡れた
髪の先から滴る雨雫をジッと見つめていた。
 伏せたままの瞳にジワリジワリと涙が浮かぶ。
 待てども来ない、その影を想って―――



 入学式の日だった。
 少し早咲きの桜が満開の校舎裏。迷い込んでしまう新入生は山ほど
いるだろう。なんせ、この学校の構造は難解かつ、複雑だ。
 去年までここの生徒であった兄ですら、完全に道を覚えていないとい
う。なんでも創立者が迷路好きであったことからこのような構造になっ
たらしいが――後々の生徒からすれば迷惑な話であることこのうえない。
 彼は眉根を寄せ、パンフレット片手に歩き回っていた。
 真新しい学ランの下に着ているワイシャツに汗が染み始めた。
「あーもう……困ったな。僕だけっぽくない? まだ迷ってるの」
 自慢ではないが、方向音痴だ。
 彼は几帳面なほどに切り揃えられた髪を掻き乱しながら唸っていた。
黒い髪の上に桜の花びらが降り積もる。
「遅刻しちゃうってー……」
「だろうな」
 ふいに、頭の上から声が聞こえた。
「だれ――――」
 反射的に顔をあげるとそこには同じ制服を着ている、自分よりかは少
しばかり大人っぽい青年が立っていた。
 手にしているパンフレットからして彼も新入生なのだろう。
 染めている、と一目で判る茶色い髪を風でなびかせながらこちらを見
ている。
 つり目気味な――とても、澄んだ綺麗な瞳だった。
「道、教えてやるから来いよ」
「あ……え、えーと……」
 慌てると声が出ない。困ったものだ。
「山中光一。お前と同じクラスの予定だよ」
 山中光一――そう名乗った、彼は大きな豆だらけの手を差し伸べた。
「ほら。早く来いよ」
「う、うん……」
 おずおずとその手をとって、彼はようやく自分の名を告げた。
「僕、時人っていうんだよ。時の人で時人」
 時人の言葉に光一はニッコリと微笑んだ。
「知ってるよ。高瀬」
 不意打ちの笑顔に高鳴る胸の存在を無視して、時人は光一の手をギュッ
と握った。前へ前へと導いてくれる安心感は、小さい頃に兄と散歩に行っ
た時を思い出させる。
 懐かしい感覚に時人は薄く微笑んだ。



 出会いなんてそんなもの。
 これが少女漫画だったなら、ロマンティックだとかどうとか言うだろうけけ
れど。ここは男子校。ただの! ありふれた男子校でしかない。
 おぼっちゃまが通うようなところでもなければ、レベルも高くない。
 どちらかと言うと低い。
 その分、月謝も安いので人気はあったのだが――保護者に。



「で。時人は山中くん、とやらに礼は言えたのか?」
「言おうとはしたけどー」
 ジョッキに入れた牛乳を飲みながら見覚えのないゲーム――恐らくは最
近購入しただろうシューティングゲームをやっている兄の夜人は、メガネの
奥の瞳をニヤニヤと笑わせていた。
 兄の性格の悪さを知っている時人としては、話したくなかったが母親が言っ
てしまったのだ。
 時間ギリギリにカッコいい男の子と手を繋いで入ってきた――だなんて。
 それを聞いた瞬間の夜人の顔は凄かった。ニヤリと嫌な笑みを浮かべ、
「お前の男か? 入学そうそうやるじゃねーの」
 なんて言い出す始末。
 深い溜息を吐きながら兄の買ってきたシューティングゲームの説明書を手
にとる。すでにボロいのはこれが中古であるからなのだろう。
 パッケージが少し欠けている。
 きっと、ワゴンの中に三つで千円とかで並んでいたヤツだ。
 幾つかのことを思うと、時人は兄愛用ベッドに腰を下ろした。いくら温かくなっ
てきたとは言えどまだまだ床は冷たい。床に長時間座ろうものならば、翌日は
トイレの住人になることだろう。
「入学式終わって、教室に行ったあとってドタバタするからさ。
 結局言ってないんだよ」
「なにぃ? 世話になったんだから、ちゃーんと礼は言うべきだろ、時人。そん
な悪い子はお兄ちゃん許さんぞ」
 別段怒っているわけではない。声も、表情も、いつもと変わらないだから。
 普段と同じようにニヤニヤとした笑みを浮かべ、コントローラーを床の上に置
く。ガタガタと震えているが、じきに止まるだろう。
 夜人の肩越しに見えるゲーム画面には、大きくゲームオーバーの文字が表示
されていた。
 それと――どちらかと言うと、父親に似た兄の顔が間近に見える。
「夜人兄……あんま近づかないでよ」
 嫌そうに呟きながら兄の顔を押し戻す時人。だが、夜人は笑ったままさらに顔
を近づけた。
 鼻先が触れ、互いの吐息が触れる。兄の口からは先ほどからずっと噛んでる
ソーダ味のガムの匂いがした。
「高校生になってまでお兄ちゃんのオシオキが必要とは思わなかったぞ。時人」
 ささやくように告げられる。
 刹那。
 唇を重ねられ、そのまま干したてのフカフカな布団へと後頭部を深く沈められた。
「ん……んぅ」
 夜人の舌が時人の唇を舐め、歯列までもをなぞっていく。抵抗しようにも、口付
けられるとほぼ同時に全身に力が入らなくなってしまい、どうしようもない。
 時人は目を閉じて、母親が入ってこないことを祈りながら兄の言う“オシオキ”を
受けていた。
「夜人にぃ……もっ、だめだっ……て」
「まーだだろ」
 ニヤリと笑う夜人。
 普段からこの顔なら――現在までに彼女が五人はできただろうに。
 そんなことを思いながら時人は鼓動を速める心臓を忌々しく思った。兄相手にト
キメクな。
「時人。こっちに集中しろって」
 甘いささやき。本当に――実の弟でなくて、女の人相手に出せよ。と言いたくな
るような声でささやきながら半開きの時人の口の中へと舌を滑り込ませる。
「ん……ふ、ぅ」
 さして抵抗もしない時人の舌を絡めとり、軽く吸い上げる。口腔内を嘗め回すか
のような、ゆっくりと支配されていく感覚に酔い始めた時人の頬が薄っすらと赤ら
んでいく。
 兄の唇が擦れるたびに腰のあたりに甘い疼きが走り、下半身に変化が訪れる。
それを感付かれぬように身じろぐと、すぐに夜人は身動きを取れないように足で時
人の体を押さえつける。
「夜人兄……っ……母さん……きちゃうよぉ」
 酔っているかのようなフニャフニャとした声しか出ない。時人は頬を赤らめ、息を
乱して兄を見上げた。
 表情一つ変えない兄は、時人の吐息で曇ったメガネを拭いていた。夜の空のよう
な闇色の瞳に自分の姿が映っている。
「母さんが来ても、俺は困んないぞ」
 メガネをかけなおし、耳たぶに噛み付く。
「お前のこと、弟として以上に愛してるからな」
「ん……っ」
 耳元でささやかれ、体が勝手に反応してしまう。
 時人はシーツを握り締めながら、夜人を睨んだ。だが彼はニヤニヤと意地の悪い
笑みを浮かべたまま新品のワイシャツのボタンを一つ一つ外しにかかっていた。
 几帳面な兄らしい―――
「俺も大学生として時間が少なくなるし……今のうちに思い出作りしような? 時人」
「バカなこと……いわ、ないでっ……よぉ」
 耳の中を舐められ、思わず心臓が跳ね上がった。
「バカだと? お兄ちゃん悲しいぞ」
 悲しくなんてないクセに――笑っている夜人にそう毒づきたくなったが、きっと言え
ば新しいオシオキが追加されるのだろう。容易に想像できる未来に時人は、小さな
溜息を吐いていた。
「お前の好きだろ? 昔はやってー。って自分からきたくせに」
「夜人兄が、そうさせたんだろ……っ」
 胸の突起を抓られ、声が上擦ってしまった。
 小学生の低学年のころからずっと躾けられてきたこの体は妙に敏感に出来てい
る。指先で軽く弾かれただけでズボンの中で窮屈なまでに膨らんでいるオスが達し
そうになるほどに。
 プール授業や修学旅行が地獄だった。
 オカマ。なんてあだ名をもらったとすらあった―――
 昔を思い出し、少し落ち込みかけていた時人を呼び戻すかのように夜人が彼の
胸の突起を吸い上げた。
「あ、あぅっ……ん」
 思わず上げてしまった甲高い嬌声に後悔する。だが兄はニヤニヤと笑って、膨
らんで尖っている胸の突起を舌の上で転がして遊んでいた。
「もう……いい加減にっ……ん……うぅあ、っん」
 夜人の髪を掴んで、歯を食いしばる時人。その大きな闇色の瞳から涙が溢れる。
 それをシーツに染み込ませながら頭を左右に振って声を堪えようとを歯を食い
しばっていた。
「かーわいい。どんな女よりもかわいいな……時人」
 ささやかれ、胸元をきつく吸われる。
 針を刺すよう痛みに顔を顰めながらも、全身を廻る熱に翻弄されて紅潮した頬
に涙の痕が浮かび始めていた。
「ガクランにシワがつくかもな。まぁ……細かいことは気にするなよ」
「細かく……ない……」
 あっけらかんと笑っている夜人の胸を力の入らない腕で叩く。見た目よりもそれ
が筋肉質であると感触で知ると、時人は悔しそうに歯を食い縛って上目遣いに睨
み上げていた。
 細身の自分とは違う、兄の体型が羨ましいのだろう。
 それに気がついてか夜人はニヤリと笑って、自らも上着を脱ぎ捨てた。自分とは
違う細い上半身が視界に入る。
「俺の半裸見たかった? たっぷり見ろよー。俺も見るから」
 ニヤリ、の笑みがニッコリになる。
「夜人兄……オッサン……?」
「…………」
夜人の手が時人の両足の付け根でテントのように膨らんでいる場所を力強く握る。
表情は相変わらずニヤニヤしているが、どうやら怒ったらしい。
「いたっ、痛い痛い!」
「オッサン扱いするなよ?」
 顔を近づけて、言い聞かせるように告げると時人はコクコクと頭を縦に振った。さ
すがに兄を怒らせて不能になりたくはなかったらしい。
「よろしい」
 満足そうに笑う夜人。指先で膨らんでいる股間にある、時人のオスを撫で上げな
がら、その上の肉の少ない腹へと移動させる。
「ひゃぁっ……!」
 予想外のところへの刺激に、時人の体が大きく震えた。危うく達してしまうところだっ
たのだろう。吐精を堪えた時特有の苦しそうな顔を浮かべている。
「我慢せずに出せばいいだろ? その方が楽だぞ」
「だって……学ランにっ……臭いがぁっ……ぁぁん」
 ヘソを舐められ、声が上擦る。女の子としか思えないような嬌声を上げる時人の腹
に舌を這わせている夜人は、ヤレヤレといった面持ちで時人のズボンのボタンとファ
スナーを下ろした。
 片手でズルズルと脱がせて、下着だけにすると苦しそうに膨張したオスの先から素
手にせっかちな白い蜜が零れているのがわかった。
「これでいい? 弟思いな俺に感謝してね」
 告げながら、胸の突起を摘んでいる器用な指先。
 弟思いの兄はこんなことしないよ――とでも言いたいのか時人の顔に不満に色が
滲んでいる。幸か不幸か夜人は時人の顔が見えていなかったが。
「もう……そんなに……いじんないでよ。舐めないでよ」
「イッちゃう?」
「うん……」
 小さく頷き、兄の手を引き剥がそうと自分よりもずっと大きな兄の手を握る。
 刹那。
「やーん☆ 時人のいじわる♪」
 ふざけた声の調子で、今にも達しそうだった陰茎を下着の上から咥えられてしまっ
た。尖った犬歯が蜜の溢れる陰茎の先端に触れる。
「やっ、あっあっあ――――!!」
 夜人の手を強く握りこんだまま、ベッドの上で海老のように反り返る。手の中にある
下着に浮かぶシミがジワりと大きくなった。
「驚いただろ?」
「……ばっ……ばかぁっ」
 羞恥のあまり、涙を零している時人。
 今にも声を上げて泣き出しそうなその顔に焦りを覚えたのか夜人は少し早口で、
「ちゃんときれいにしてやるから。任せろって」
 時人の胸を軽く叩いて、下着をずらす。
 吐性して力尽きた時とのオスがグッタリと白濁の液に塗れて倒れている。夜人は恭
しくそれを手にとると、何ら迷わずに上下の唇で挟み込んだ。
 精液特有の味と臭いが口の中に広がる。
「ふぁ、あっ……やだっ……また、ぁ……っちゃう……」
 指を噛みながら反論する時人の声は、射精した疲労からか弱々しく、よけいに虐め
たくなった――――が、それを堪えて夜人は陰茎を中心に白濁の付着した時人の両
足の付け根に舌を這わせていた。
「うぅ……ん、あっ……」
 やはりこの箇所は胸の突起並に敏感に育ったのか、いちいち嬌声をあげている時
人。心なしか先ほど達したばかりの陰茎も頭をもたげてきているような気がしないでもない。
「時人ー挿れていい?」
「…………」
 黙りこんでしまった時人の股間に顔を埋め、両足の付け根のさらに奥にある秘所へ
と舌を這わせる。前々から慣らし続けているからか、軽く舌先を入れるには苦労しない。
「……い、いいよ……」
 少しだけ躊躇うその口調。
 だが、彼もまた自分のように問題視などしてないだろう。
 この程度のこと。
 夜人の整った――時人とは属性の違う顔がニヤリと笑う。
「そうこないとな」
 時人の両足を左右で肩に担ぎ、入り口が見えやすいように軽く開かせる。挿入され
る――という気持ちの昂ぶりからか、時人のオスはすでに先端から蜜を滴らせていた。
「こんなもんで入るよな」
 中指と薬指の二本の指で確認するように、入り口をグチュグチュといやらしい音をた
ててかき回す。与えられる快楽に時人の体が反り返り、淡く色づいた胸元の突起が痛
そうなくらいに張り詰め、その存在を主張している。
「夜人兄っ……焦らさないでよ……」
「はいはい。わがままな弟だな」
 笑いながらの言葉。本当は嬉しいクセに。
 時人は夜人の背に腕を回し、入り口にあてがわれた硬い感触へと神経を集中させて
いた。呑み込むときに気をつけないと、時折り裂ける。それだけは避けたい――そんな
ことを思っているような顔だった。
「挿れるよ」
 兄の律儀な一言と同時に、指とは比べものにならないほどの体積が壁を割いて押し
入ってくるのが分かった。
 息が詰まりそうなその感覚と、体の奥底で感じる強すぎる快楽の狭間で、時人は下
にいる母の存在を忘れて本能がままに声をあげたくなった。
「んぁ、あぁ――」
 どうにか大きな声を上げるのは堪えたが込み上がってくる嬌声は止めることなんて
できない。
 時人の唇から洩れる甘い声に夜人は、メガネの位置を直しながらさらに奥へと腰を
進める。
「はぁっ、あぁ……んぁ…っ、うぁ……ん」
 一番奥の感じやすいところを突かれ、時人の声が上がる。強すぎる快楽に涙が溢
れ、紅潮している頬を流れ落ちていく。
「夜人……兄ぃっ……も、と……もっとぉ」
「たっくさんあげるよ。時人」
 幼い頃のようにおねだりを始める時人に微笑みかけ、夜人は挿入した自らのモノ
を出入り口ギリギリまで引き出す。
 先端に近いくびれ部分が外に出ると、そのまま一気に中へと押し戻す。強く奥を突
かれ、時人の体が跳ねた。
 快楽を欲している陰茎が蜜を零しては震えていた
「あ、頭っ……おかしくなりそぉ……っ」
 背中に爪をたて、きつく抱きしめようとする時人の陰茎に手を添え、絶頂の手助け
をしながら、夜人は曇るメガネを外してベッドヘッドに置いた。
「もうおかしいだろ。俺のがないと生きていけないんだから」
 耳元でささやき、頬に口付ける。
 彼もまた限界が近いのか、腰の動きが速く、激しくなっている。
 全身を揺さぶられている時人の腕が夜人を求めて宙を泳ぐ。
「夜人兄が……僕を、そうしたん……でしょぉ……」
 艶っぽい眼差しで見つめられ、深く口付けられる。
「違いない」
 その言葉に頷き、口付けに応える。
 深く絡まり合う舌。刺激されて分泌される飲み込みきれないほどの唾液が糸を引い
て胸の上に落ちる。
 その間にも夜人の腰は時人を犯している。
「もう……もう、僕……いっ……イっ……ちゃ……」
「俺も一緒だから……な?」
 幼い子供を言い聞かせるような口調で囁いて、時人の頬を伝う涙を指先ですくう。
 後頭部に当てられ、髪を掴んでいる時人の年のワリには小さな手に力が入った。短
く切り揃えた爪が食い込み、痛みから夜人が少しだけ顔を顰める。
 刹那。
「夜人兄っ……――!」
 兄の名を呼びながら絶頂を迎えた時人のオスが夜人の手の中に白濁の飛沫をあげ
た。受け止めきれなかった白濁の雫が指の間から零れ落ちる。
 吐精の影響で内壁がギュッと絞まると同時に、夜人の体が震えた。
「……本当に……かわいい弟だよ。お前は」
 呟いて、時人の中で吐精した自分のモノを引き出す。ズルりと一緒に出てきた自らの
白濁に苦笑しながらメガネをかける。
 疲れて眠っている時人の顔の涙と汗を濡れたタオルで綺麗にしながら、夜人はすっか
り暗くなった窓の外を見ていた。
「カーテン閉めてなかったな……見られてないといいけど」
 困ったように呟いてはいるが――顔が全然困っていない。