どこで何を間違えた。
叫んでも叫んでも、
あなたはもうかえってこない。
夜の闇を一人で彷徨うとき、
朝の光を一人で駆け抜けても、
もうどこにもあなたはいない。
申し訳程度の存在感。
便箋一枚の言葉、手の平サイズの小箱、いくらかの残高が残された通帳。
これだけがあなたの遺したもの。
その手の温もりも笑顔も、すべてはやがて消えていくことでしょう。
忘れて忘れたあなたの顔なんて思い出せないどうか忘れさせないで苦しい
思い出させて忘れないで忘れさせて苦しいやめて消えないで消えてここにいて。
矛盾する心を抱いてどこまでも走れば答えが見つかるのかと問えば、
残酷な詩人はどこまでも楽しそうに笑うだけ。
笛を吹いて歌を歌って。
私を嘲笑う。
海を泳ぐその姿を引き止めてこの腕の中へ。
囁いた愛も、誓った愛もすべてが真実というならば、
いますぐ蘇って、その柩を開けて、昨日のように笑って。
触れた頬の冷たさに言葉を失う。
未来もすべてなくした骸をどうすればいい。
燃やして灰にしてしまえばすべてがなかったことになるだろうか。
白くて硬い骨を埋めれば何もかも忘れてしまえるのだろうか。
灰色のあなたはどこにもいないのに、
灰色のあなたを沈める石はあなたを求める私を惹きつける。
どこにどこにどこに。
どこへどこへどこへ。
夢の中であなたに出会った。
賽の河原で微笑むあなたへと手を伸ばして叫ぶ。
叫んで叫んで叫んで、喉を潰してようやく眠る。
いますぐいますぐいますぐいますぐいますぐいますぐ。
あいたいあいたいあいたいあいたいあいたいあいたいあいたい。
あなたのためなら誰でも殺せるの、
あなたが隣りにいてくれるのなら誰でも殺せるの。
あなた以上に大切なものなんてないから。
たとえ、神でも、
たとえ、閻魔でも。
あなたを奪ったこの世界すべてを殺してあなたを求めて私は地獄へと堕
ちてそれでもなお見つからないあなたを求めて今度は天へと昇るけれどや
はりあなたは見つからないどこへいってしまったのどこへ消えてしまったの
どうすればあなたに会えるどうすればあなたを感じられる?
冷たい海に沈む足を眺めていてもあなたは見つからない。
叫んでも叫んでも、
あなたは答えてくれない。
ところであなた気付いたのよ。
手を付けられることのない膳。
向かい合うのは一枚の写真。
それでもそこにあなたはいる。
薄っぺらい紙の中にいる。
まるで二人で暮らしていた頃のように。
楽しく語らう日々は幸福であると誰が言う。
それは私が言う、誰にも言わない言わせない。
ここは私とあなたのお城。
誰も入れない。
あのねあなた、
私のお腹に子供がいるの。
あなたの子供よ、あなたよ。
叫んで叫んで叫んだその先に用意されていた光は小さな小さな胎児の形
として此処にいる此処に在るあなたの遺した小さな遺産なんかよりもずっと
あなたを教えてくれる温もりは今日も今日とて私の胎で命を育むのいつか
育ってあなたそっくりになって私とあなたは再会するのよこの子はあなたな
の私の子供はあなたになるの誰よりも愛しいあなたは愛しい子供を遺して
くれた。
はやく産まれておいで……
はやく、あいたい。
あいたい、あいたい。
あいたい。
滴る血潮を命と海だと飛び込むのはあなた。
泣かない赤子と柩のあなたが重なった。
あぁ、どこでなにをまちがえた。
叫んでも叫んでも、
あなたはもういない。