ハロハロハロウィン♪

 ハローハローハロウィン♪

 みんなのヒメイが僕らの好物♪

 ハロハロハロウィン♪

 おかしもいたずらも両方やるよ♪

 ハロハロハロウィン、ハローハロウィン♪

 今日だけは僕らの時間♪

 ハロー




 ハロウィン。



 右目だけ隠すように眼帯をつけて、他は人間とまったく同じ。これだ
けが彼の美点、あとは全部ダメダメだと彼のパパンが言っていた。
 人間に近すぎるって、近すぎるとそれはそれで便利だけど仲間と思いたくないって。
 だから彼はちょっと前に勘当されちゃった。
 子供が独りで生きていけるほど甘くない世の中、仕方がないから彼は親になって
くれるヒトを探すことにした。彼の美点は人間に近いこと、なかなかバレない――
 右目の眼帯をとらなければね。
「うー……まだ十月なのに……」
 寒い寒いと両手を擦り合わせて息を吐く。
それはきっと当たり前、纏っているのは薄い寝巻き一枚なのだから。
 親が見つかればきっと暖かい部屋に入れるなんて妄想を抱いて、
もしかしたら美味しいご飯も食べれるかもしれないなんて思って。
 自然と顔に笑みが浮かぶけど、

「そんなに甘くないよねー……人生」

 見た目が子供だからって彼は生まれて五十年。
長い事子供の姿をしてるから食べ物をとることも上手くできないし、人間に
近すぎるから人間を食べることもで気ないし。摂取するのはもっぱら人間と同
じジャンクフード、しかもゴミ捨て場で待ち伏せして捨てられたのを食べてるんだ。
 その姿に見知らぬ大人が何かを言ってたけど、彼は何も気にしない。
 だって他人の目を気にするほどの激情が沸くほど若くないから。
 見た目は子供でも中身は立派なオジイ。けれど見た目どおりのことしかできないんだ。
 だからきっと、彼のパパンは彼を見捨てたのかもしれないね。
 化物といっても寿命は永遠ではないのだから。
「……寒い、寒い」
 手を擦り合わせて時計を見ると、すでに時間は食事の時間。
急がないと同じように家がないヒトたちと食事を争うことになる。
 化物らしく凄い力を持っていればよかったのだけど、残念ながら力は人間とほぼ同じ。
 違うのは眼帯の下の右目と服に隠れたヘソくらい。
 彼にはヘソがないんだ、だって卵から生まれたから。
パパンは牛人間、ママンは人魚。
上手く混ざり過ぎて人間が生まれちゃった。
卵から人間が生まれたことに驚いたパパンとママンはそれでも五十年は育ててくれたんだ。
 だからとても愛してるけど。
 ちょっと最近は冷たいなーとか思ってる。
 だってこんな寒い世界に放り出されたら死んでしまう。
 きっと飽きたんだな、成長しない息子に。
ブツブツとそんなことを考えながらハンバーガーを口に運ぶ。
周りには争いに敗北したお仲間が蹲って、ものほしそうな目を向けていた。
「はぁー……だれか僕のパパンとママンになってくれないかな。ニホンゴだってちゃんと覚えたのに」
 ボヤいても腹は膨れない。
 懸命にハンバーガーを食べていると、彼は一つの視線に気が付いた。
「坊や、こんなところで何してるの?」
 ちょっと年はいっているけれど、優しそうな老婆だった。
「どうしたい、ばあさん」
 ちょっと遅れてやってくるのは、これまた優しそうなじい様。
 二人の姿を確認した彼は、これはチャンスと言わんばかりに大急ぎで涙を浮かべた。
うるうると揺れる双眸を見ていた老夫婦は彼に何かしらの事情があるのだと勝手
に解釈し、その枯れ枝のような手を差し伸べた。
「いつもここを通るけど……あなた、今日がはじめてなの? 
こんなことするの、ね……だめだわ、わたし、あなたが心配で仕方ないの。
 坊や、うちへいらっしゃい……ね?」



「アリガトウ、ママン」






 ハロハロハロウィン。
 今日はハロウィンだって忘れてたよこのジャッポーネ。
 ハロウィンの夜に出会った子供には気を付けなさいってパパンが言ってた。
 古今東西関係なしに襲われるから。

 お菓子を持ってれば命だけ助けてあげる。

 お菓子がなければ命を貰う。


 ハロー、

 ハロー、

 ハロウィン?


 お菓子がなくてご飯もないよ。
 部屋は隙間風びゅーびゅーで暖かくもない。
 薄い布団一枚で何ができるの。
 時間を無駄にした。
 なんてやつだろう。

 ハロハロハロウィン。

「お菓子をくれないと悪戯するよ」

 悪戯いたずら。
 ハロハロハロウィン。
 あまーいあまい、イチゴシロップ。
 枯れ果てた体から出たにしては美味しい味。
 肉が少ないからせめて骨を齧って空腹を紛らわせる。

「ふー……こんな、もんかな」

 冷蔵庫の中身を全部頂いて。
 真っ赤な部屋を後にする。

 取れるのはこれだけしけてるね。


 最後に小さく振り返って、

「グラッツィエ……パッジェーオ」


 ちょっと前に覚えた言葉を口に出してみる。





 不思議と心地良かったのが不思議。
 もー日本には興味ないから別の国に行こう。
 今度はイタリア、せっかく言葉覚えたんだから。

 彼は行き込んで右目の眼帯を外す。
 そこには小さな南瓜のマーク。

 彼はハロウィンの王子様、王子様らしい屋敷を見つけるまで帰れないよ。


 ハロハロハロウィン、
 みんなを食べよう美味しいハロウィン♪
 焼き菓子よりも大好きだよこの味は。


 ハロハロハロウィン、ハローハローハロウィン。

 ハロハ――


 ハロウィンの晩が過ぎたら化物は出て行ってはいけないよ。

 怖い大人に売られてしまうから。

 ハローハロー

「うわっ、やめろよ!! やめ、や……――――!!!」


 
 ハロハロハロウィン。

 王子様のスープをどうぞ。
 とろとろになるまで煮込んだパンプキンスープです。


 ハロハロハロウィン、どうぞお召し上がれ。

 

appetito!