秋桜一輪、風に揺れる。
ヒトからすれば大輪ではないその花を大輪と信じて舞い踊る羽ある生き物。
あなたにあいたかった。
あなたをください。
わたしにあなたをください。
その最後の一滴まで残さずわたしにください。
その柔らかい頬へと手を触れ、その甘い唇をわたしにください。
永久に続く愛と引き換えに。
あなたの全てが欲しい。
無人の大地で出会った孤独なあなた。
風にさやさや揺れる秋桜と同じ匂いを感じさせるあなた。
誰も触れてくれなくて淋しかろう。
永久なる孤独は恐ろしかろう。
そのまま枯れ果て醜くなるよりも、刹那のぬくもりに身を委ねてはみないか。
冷えきったその肌を温めてあげる。
嘆きに満ちたその声を飲み干してあげる。
頬を伝う絶望もすべて舐め取ってあげる。
あなたの悲しみ一滴も残すものか。
愛してあげる。
悲しみが二度と湧き出ないまでに。
さあ、この腕に。
あなたの全てを抱き締めてあげる。
顔色の悪いあなた。
もうじき終わる時間。
刹那のぬくもりは、刹那の愛情は心地良かったろうか。
私はとても満足だ。
あなたのくれた愛しい蜜は私を満たしてくれる。
この胎に宿る命を紡ぐための糧になる。
サヤサヤと揺れる秋桜が死ぬ。
この花畑にあなたの骸を埋めよう。
次の季節にも逢えるように。
あなたの悲しみを飲み干した私、私の子があなたに会いに来る。
次の秋にまた逢おう。
あなたは私の花、私は自由な蝶。
秋桜一輪枯れる。
悲しみと絶望を美しい蝶に吸われ、その命まで吸い尽くされた花が地に伏す。
やがて土に還り、更なる花を咲かせるその日まで。
蝶との再会は叶わずとも繋いだ命と再びめぐりあう。
あなたではないあなたと。
ぼくではないぼくと。
二人めぐりあい、再び貪ろうか。
ここは無人の大地。
誰一人として想いを馳せることのない嘆きの地。
あなたが訪れるこの季節だけがぼくの慰め。
ぼくはあなたの花。
わたしはあなたの蝶。
秋風にさやさや揺れて、あなただけを待つ。
秋風に乗って舞おう、あなたのくれた命を抱いて。
次の秋はどれだけのあなたに逢えるかな。