空の環にきみの姿を探す。
 どこにいるのかわからないきみ。
 こんなにも会いたいのに時間は残酷だと嘆く。
 けれど嘆いたからといってきみが笑うわけでもない。


 ああそうとも。
 理解している。
 痛いほど、苦しいほどに理解している。
 それでもきみを想わずにはいられない。

 あの太陽が沈んだ頃にきみを失って。
 あの太陽が昇る頃に再びきみに会えると信じた。

 黄昏の空に笑うきみは天使のように美しくて。
 満天の星空で泣くきみは花のように儚くて。

 けれども愛しいと想うからこそ抱き締めた。
 きつく、きつく、抱き締めた。
 二度と離さないと、クサイドラマのように抱き締めていたのに。

 なぜだろう。
 どうしてこんなにも心が寒い、胸が寒い。
 九月の風が僕の胸に風穴を開けてしまった。
 どうしようもない寒さが僕を凍えさせる。
 探さなきゃ。
 きみを。


 きみを探さなきゃ。
 どこかで笑うきみを。
 どこかで泣くきみを。

 紅葉の始まる木々の中で。
 日々冷たくなる風の中で。
 燃えるような紅の空の中で。
 水面に映るきみの姿だけでも探し出したい。

 空舞うきみの姿。
 地這うきみの姿。

 あいたい

 あいたい

 あいたい、あいたい。

 きみだけにあいたい。

 忘れられようにもないきみのすがた。

 いとしいいとしい

 きみのすがた。


 明日の扉を開いたら――

 きみはそこにいるのかな。
 笑って僕を出迎えてくれるかな。

 明日また会おうと約束したきみ。

 川を挟んだ向こう側で手を振って。
 今すぐそっちへ行くよ。
 あいたいから。


 ブレーキの音、視界がぐるりとまわって叩きつけられて。
 ざわざわとざわめきが聞こえた。
 誰かが僕の顔を覗き込んで叫ぶ。
 何を言っているのかわからない言葉。
 ただ白い視界にきみがいる。
 笑って、手を差し伸べて。
 かわいい唇が言うんだ。

「――――――」

 こんなにも嬉しい日はない。
 痛いのなんて忘れて早くいこう。
 二人で早く。
 久しぶりだよ二人の時間は。
 やっと見つけたきみ。
 見失わない内にきみのそばに。


 その手を…………




「ここねぇ、先月の同じ日にも事故があったのよ。
 被害者は若い女の子だって。怖いわねえ……」

 この……て、を……

「轢かれた男の子、ブツブツと言いながら飛び出したらしいわよ。
 ノイローゼかもしれないわね」

 あいたい……あい、た……い

「この辺のつくりなんて変えちゃえばいいのよ。
 あぶないったらないわ」

 あい……た……

「以上が現場の証言でした。
 なお、被害者の砂原高校二年生の御木本くんの死亡が確認されたそうです。
 この周辺では先月の同じ日にも同様の事故があり、関係者は――」

 ノイズが混じる。
 耳が聞こえない。
 せめて一声、喜びを。

「……? マイクの調子が……」

 ザザ……ザ……

 ザザザ……
 ……ザザーザザッ……


「きこえます……きゃああああああああっ!!!」

 ノイズの中で叫んだ。
 歓喜の言葉を。
 きみにあいたいと。







「あいたい……あいたか……た……あい……」


 僕の視界が真っ暗になった。
 闇の中で


 ……きみに


 アエタ。


 ああああ……


 ココニイルヨ。



 えええてええてえええてえて……



 アイシテル。




 あえてよかった。