――泣かないで。
 僕が傍にいるから。いつでも抱き締めてるから。
 お願い泣かないで。
 そんな悲しそうな顔を見たくない。
 お願い……泣かないで。


 黄昏色の空に悲しみの歌が響き渡る。
 冷たい大地を踏み締める幾多もの足は天へと捧げる柩を高く掲げ、
その中にて眠るもの言わぬ姫を想い涙する。
 涙一滴大地へと落ちれば、そこに芽吹くは絶望の種子。
 やがて成長して大輪の絶望の花を咲かすことだろう。
 止められぬ滅亡、終わらぬ破壊。
 溢れ出した感情の全てが彼女を殺した。
 物言わぬ骸と成り果て、その肉の一欠片さえも残さず焼かれ。
 白い骨だけが柩の中で横たわる。
 赤と白の花に囲まれ、生前に愛していた物に囲まれ。
 遺した言葉を誰に聞かれることなく消えていく。
 冷たく暗い土の中で大地へと還っていく。
 その様子を見送り、忘れることで初めて彼女を弔ったことになるだろうか。
 あの笑顔も、あの声も、彼女という存在すべてを忘れることによってしがら
みの鎖から彼女を解き放つことができようか。
 否。
 忘却は供養にはならない。
 縛る記憶で彼女をこの薄暗い世界に縛り付けるのではなく。
 想いの中に生かしておく。
 此処にいる人間の時間が流れるのと共に彼女は徐々に成長する。
 肉体はなくとも魂は残る。
 この世界に、この胸に、この時間に。
 あぁ――ならば悲しむ必要なんてない。
 彼女は此処にいるのだ。
 冷え切った土の中にも、無機質な石の中にもいない。
 墓標なんて物は気休めでしかない。そこに彼女はいないのだから。
 泣くな。
 黄昏の空を悲しみで染めるな。
 血の涙を流して笑え。
 空の黄昏をも塗り潰すほどに。
 彼女の肉体は死した。
 しかし魂は此処にいる。
 各々の胸の中にいる。
 一時の嘆きで忘却の理由にするな。しないでくれ。
 彼女は生きているんだ。
 ここにいる。
 ここに。
 ここに、ここに、ここに。



 僕じゃダメなの?
 一緒にいる、傍にいるから。
 泣かないで。僕だけはいつまでも裏切らないから。
 ずっと忘れないから。一緒に……一緒に……つれてって……
 一人で逝かないで。
 お願いだよ……僕を置いて逝かないで……――


 

 希望の朝陽が昇る東の空。
 揺れる彼女の体は何を連れてきてくれたのだろう。


 ――死者哀魂――