比翼の鳥の片翼が堕ちる。
炎の翼を散らして、昏い空を堕ちていく。
消滅を恐れた闇の片翼はヒトの腹に宿る魂無き器へと入る。
そこは双生児を生み出した母の御許のような暖かく、安らいだ。
「女の子でしたよ」
まばゆい光に邪魔されて目覚めた片翼は視界に映る人間たちを見た。
疲れきった顔で誕生を喜ぶ女。
涙ぐんで女を誉める男。
二人が嬉しそうに言うのだ。
「生まれてきてくれてありがとう」
堕ちた片翼は母を想う。遺された片翼を想う。
けれど、此処から消えることは無い。
女の胎内から生じた、魂無き肉隗を喜ぶ二人を観察するために。
この二人が朽ち果てるまで見ていることにした。
死を知らぬ身。それはヒトの器にいても変わることは無い。
片翼は二人に手を引かれて歩く。
黒――あの、懐かしい混沌の大海にも似た空に浮かぶ真紅の月。
その下で笑う。
片翼を母を想って笑うのだ。ヒトの身に宿りし闇色の片翼の魂――
その命、運命、すべてが血に塗れる末路と知らずに。
束の間の喜びを味わい、絶望するのだ。
闇色の命、此処に誕生。
嘆くは、幾千万の魂。
真紅の月の下に。
今宵、混沌が生まれる。
比翼の鳥の片翼。
闇を抱いた少女が生まれた。