愛しい愛しいシュガーリリー。
 他人をひきつけてやまないシュガーリリー。
 どうか踊っておくれよ、純白のステージで。
 その身隠すドレスを脱いで。
 できればこのヒザの上で踊っておくれ。


 愛しい、愛しい。
 シュガーリリー。


「百合の花は純潔を表すと」
「かの大天使ガブリエルの手にしている白百合のこと?」
「そう。白いあの花、花粉が苦手って人もいるけど、私は大好き」
 静かな図書館の一角。
 誰も来ない神話のコーナー。ここが二人の逢瀬の場所。
 ここ以外で会うと邪魔が入って仕方ない。
 彼女は他人を惹きつけてやまないから。
 愛らしいシュガーリリー。
 もっと小さい頃はシュガーベイビーなんて呼んでいた。
 今ではベイビーではないからリリー、なんて彼女にピッタリの呼び名だろうと。
 どこで呼んでも彼女のことだと分かる。
「私はいつまでもキレイなままでいたいと思うの。
 百合の花が良く似合う、キレイな女でいたいのよ。分かる?」
「あぁ、分かるとも。
 だからこうして傍にいても何もしない。
 君の存在だけで満足できるようにしてるよ」
 ずっといたいから。
 甘い香りの君と二人で、ずっと。
「あぁ、良かった」
 花が咲いたように笑うシュガーリリー。
 甘い香りは周囲を酔わせ、その花を奪おうと躍起にさせる。
 だから二人で閉じこもる。
 家でも、外でもない、この場所に。
 二人で聖書へと目を落とせば、それだけでエデンをこの世界に生み出せる。
 アダムとイヴになりたいなんて言わない。
 ただいるだけでいい、あるだけでいい。
 何かを生み出すのではなく。
 ただ二人あるだけ、現在を永遠に続ける。
 それだけで価値があると思えない方がどうかしてる。
 こんなにも愛らしいシュガーリリーを穢すなんて誰ができるか。
「汚い物は全部消えてしまえばいいのよ。
 私やあなたのようにきれいなもの以外すべて」
「そうだね、汚いものは見たくないね」
 例えば、肉欲に溺れる姿とか?
 例えば、純潔の美しい百合が子孫を残そうと躍起になる姿。
 例えは――外にいる歩く性器たち。
 すべて、すべて、消えてしまえばいい。
 肉欲に溺れたいならいつまでも繋がってればいい。
 離れずに二人だけで部屋にこもってればいい、相手を探すな。
 いないのなら適当な穴を、適当な棒を、使えばいい。
 巻き込むな。
 愛しいシュガーリリーを。
 甘い香りの彼女に関わろうとするな。


 僕以外。


「汚い、汚い、汚い」
 巻き込むなとあれほど言ったのに。
 可哀相なシュガーリリー。
 窓から入った他人に汚されたかわいそうなシュガーリリー。
 泣いて泣き叫んで、涙で汚れたその顔。
 花の堕ちた茎。
「汚い、きたない……うぅ」
 肉欲しか知らない生物には蠱惑的すぎたシュガーリリー。
 白く汚れて、酸っぱく汚れて。
 青臭い花は棄ててしまおう。
「わたし……」
 縋るような眼差しをえぐってしまおう。
 愛しいシュガーリリー。
 シュガーベイビーでなくなっても愛していたよ。
 甘い無垢のままでいて欲しかったけれど。
 白い太股を赤く汚しても気にしないでいたけれど。
 花を失ってしまったのならばもういいよ。
 愛したシュガーリリーはもういない。
「汚いね、お前。もっと汚しておこうか?」
「いや……っ、いやぁっ!!!」
 髪を掴んで乱暴に。
 汚いものには汚い方法で。
 どこにもいないシュガーリリーを探しに行かないと。
 汚いものはいらない。
 キレイなものだけいればいい。
 汚れてなくて、キレイで。
 それて蠱惑的。
 傍にいるだけで絶頂を感じられるような。
 そんな、花。


 僕の愛したシュガーリリー。


 どこにいる?


 白い海に溺れて眠る苦い女。
 こんなのいらない。
 もっとキレイな、キレイな。


「あぁ……」

 一人で遊ぶシュガーベイビー。
 君はずっとキレイでいてくれる?
 ずっと、僕だけのシュガーリリーでいてくれる?

 存在だけで誘惑して、いかせてみせて。
 蠱惑。
 白い、百合。
 甘い、百合。

「あぁ……止まらないな、どうしようか」


 白く、苦く、甘く。

 愛しい、愛しい。

 シュガーリリー。

 甘い純潔。

 汚れないままそこにいて。
 汚れないまま踊って。

 愛しい愛しいシュガーリリー。
 僕だけの甘い純潔。