意志を全部乗っ取ってしまえば、操ることなんて容易いこと。
 けれどそれをしない理由は――
 分かっているくせに何を聞くのだろう。
 傀儡を好きにしてもつまらない。
 反発する意志をもったヤツに強制的に奉仕させるのが好きなんだよ。


 濡れた音が聞こえる。
 転寝をしていたのかと彼は脳裏で呟いた。
 足の間に頭を埋めている友人は、その目に涙を滲ませながらも懸命に命じ
られたことを行動に移していた。その首には太いレザーの首輪。
 引っ張りあげれば、そのまま天井から吊るされるように縄を通した代物。
「本当にお前はヘタだな」
 呆れたように呟けば、懸命に口を動かしていた友人の動きが止まる。
 涙の滲んだ双眸が黒い前髪の間から覗いて。
 そのあまりにも怒りと、悔しさに満ちた眼差しにゾクゾクした。
「ボクは何度も言ってるだろ? 死にたくなければボクの言うこと聞いてって」
 軽く縄を引っ張れば、首輪が天井へと引っ張られる。
「う、ぐっ……まこ、とぉ」
 息苦しさに嗚咽を漏らしても、彼はその手を緩めない。
 これは彼との取引のための道具だ――甘い甘い、蜂蜜よりも甘い脳をした彼
に現実を教えるための道具。
「死にたくないならやれよ。ボクはお前の価値なんて魂だけだとしか思ってないん
だから」
 そこにいる存在と、躯に価値はないと繰り返す。
 漆黒の髪と、漆黒の双眸。これだけでも稀有な宝として扱われる――だからこ
そ、勘違いをする。自分に価値があると、自分は宝だと。
 だか教えてやる。
 そんのような価値はないと。
「ほら。口が止まってる」
 上から見下して。
 純粋で真っ白な彼の心を踏みつける。
 汚して、壊して、ぐちゃぐちゃになったところで誰が困るか。
 強制的に口淫をさせて、反抗的な眼差しを向けられる。
 彼の立ち位置を教えられるだけではなく、自分も楽しめる。一石二鳥というも
のではないか。真は喉の奥で笑い声をもらす。
「ちゃんとやらないと本気で殺すよ。
 お前の代わりなんてたくさんいるんだからな」
 代用品なんていくらでも――
 次の器が優秀であろうとなかろうと、立ち位置をわからせるために同じコトをさ
せる。本来ならば仕えるべき相手に――この行為を強制させる。
 背筋を這うような感覚に、真は握っていた縄から手を離した。先ほどよりも舌が、
唇が動いているのは――その熱が激しいのは、怒りの表れだろうか?
「噛み付いたりしたらお前も同じ目に遭わせるからな」
 嘲笑うように告げれば、彼は酷く反抗的な目で睨みつけてくる。
 この目を見て何を思う?
 頭の奥から響くもどかしい悦楽以外に。
 何を思う?


「あぁ。なるほど、分かったよ」


 友人の頭を鷲掴みにする。
 驚いたのか顔をあげようとする頭をそのまま押し付け、その喉の奥へと自らの
昂ぶりを押し込める。息苦しそうにうめく声が耳に心地良い。
 真は脳裏に疼いていた自らの感情を嬉々として吐露し始めた。
「そうだよ。分かった、ボクはね。深山ァ――」

 真っ黒なその髪。
 真っ黒なその瞳。

 これだけは自分だけのものだったのに。

 唯一の彼女とのつながりだったのに。

「お前がボクの大切な部分にまで入り込んできたのが腹立たしいんだ」

 口の中の肉が擦りあげる。
 熱がぐるぐるめぐる。
 どんな顔をして泣いているのだろう。
 この姿を見た彼女は何を言うのだろう。
 想像だけで何度でも達することが出来そうだ。

「何もしなくても彼女に愛されるお前がね」


 その身を、その心を、どこまでも踏み荒らす。
 強制的に行うこの行為が魂にまで染み付くように。



「ボクのほうが彼女を想っているというのにね!」