――落ちていく感覚。

 ただただ落ちていく。

 周囲は闇ばかり。何も見えない闇の中で彼女は悟る。

 

――私…死んじゃったんだ………――

 

 納得しろ、と誰かに説明されなくても理解するしかない。曲げようのない事実

なのだから。落ちていく中、脳裏に蘇るのはゆかりの姿ともう一人の幼馴染の姿。

 そして――両親の姿。

 みんなより先に逝ったのか、ゆかりたちは先に逝っているのか、考えようと思った

が突然耳元に聞こえた声に意識を現実へと引き戻された。

「選択してくれる? この白い仮面を受け入れて生きるか、死んで地獄に落とされるか」

「な…」

「口答えしてる間に地獄に落ちるよ」

 闇の中に響く声は意地悪に聞こえた。死にたくはない、ただあの白い仮面――不自然

なほどに笑んでいる仮面をつけるのは躊躇われる。迷っている結依に痺れを切らしたか、

声は彼女を挑発するかのように告げた。

「柳沢ゆかりと佐々木或斗…二人はまだ生存してる。助けたくないの?」

「………行くから。助けに行くから………」

 手を伸ばす。声が笑った。

「ふふ………じゃあ、小手試しに地獄の渡し守を倒してきてよ」

 仮面が顔に着く――それと同時に落ちるスピードがあがった。

「つっ………!!!!」

 頭の中が掻き乱される。何が消えて、何が増えた?

 制服とは違う肌触りの衣服、革靴じゃない靴――違う、これは下駄だ。

 何から何までは現実だか分からない。ただ分かるのは。

 ――これが、夢ではないということ。

 落ちていく中で彼女は喉元まで出てきた歌を紡いだ。

 

 ――夢見る幼い蝶の羽を裂いて飾ろう この胸に

 そうして途絶えた夢も 希望も すべてはうたかたに消え

 赤い涙の海でおぼれるきみを抱いてともに堕ちよう 瞳閉じて

 籠の中のか弱い小鳥 この腕の中で美しく朽ちていけ――

 

「ふーん………存在が消えたのに、残るものもあったんだ?」

 声が何を指すかは知らない。結依は自分が自分であることを願って歌った。

 何度も何度も聞いたこの歌。まだ詩であった段階も知っているこの歌。

 ――詩?

 なぜ、知っている?

 自分が、この歌に曲がなかった頃を。

 この歌がまだ――命を得ていなかった頃を、なぜ知っている?