朝から頭が痛かった。
痛む頭を抑えて学校へ行く。珍しく、ゆかりが迎えにこなかった。
些細なことと思えるのは頭痛のせいだろうか?
結依は重い足取りで近所を歩いていく。不思議と人のとおりが少ない。
普段ならば会社に行く人から学校に行く人まで様々な人たちが通るというのに、
今日に限っては野良猫すら姿を見なかった。
「おはよう。結依さん」
なのに、彼とは会うのか――
「おはよう………」
隣を歩く神月に軽く挨拶をして、結依は歩調を速めた。
できることなら関わりたくない、それが本音。だがそれを汲んではくれないのか
彼は彼女の歩調に合わせて歩き始めた。
「昨日の仮面はどうしたの?」
「一応…持ってきてるけど………」
「そっか………大事に、してね?」
首をかしげて告げる神月。彼がなぜこんなことを言うのか分からなかったが、
分かりたいとも思わなかった。彼といると調子が狂う――平凡な高校生活がお
くれなくなる。結依は歯を食い縛って走り出した。
走るのは嫌いじゃない――ただ、走らなかっただけだ。
「走るの、速いね………とことん、ボクの理想だよ」
少しおくれて走る神月の言葉。
軽い、めまい。
もっと小さい頃――誰からも子供と言われていた頃に同じコトを言われた気が
する。相手が誰だったか。なぜ言われたのかすら覚えていないけれど。
ただただひたすら走って、彼から離れることしか考えたくなかった。
ほかのことを考えている間に彼は近くにくる。自分でも払いのけられないような
深いところまで入り込んでくる。そんな危機感があった。
「………なに………これ………?」
白い学び舎。年月の汚れはあれど、まだまだ綺麗な校舎。
そこに広がるは鮮血。転がるは同じ制服の人々。
「なんで…っ………?!」
胸を抉られ、ぽっかりと開いた空洞から流れ出る血液。時間の経っているものも
いるのか、その表面が凝固しかけているのもいた。
それらを見下ろして、神月は肩をすくめた。
「酷いことするよね。彼は」
「彼…って………」
黙った間まま指をさす。釣られて目線をやれば、そこには黒い仮面をつけた人―
―それも、同じ制服を来た男子だった。
「黒い仮面………か。対抗する気なのかな?」
青い目を細めて黒い髪の男子を見る神月。その瞳に冷たいものが走ったのを結依
は見逃さなかった。背筋がゾクリとする。
「…あ………ゆかりは…ゆかりは、無事なのかな…」
「彼に聞いた方がいいよ。ボクは分からないから」
彼――黒い仮面の男子を見上げて、結依は精一杯の大声を出した。
「ねぇ、ゆかりは無事なのっ?! それに、なんでこんなことをするの!?」
答えは――いたって、機械的。
「人類ヲ………排除………」
悪寒が走った。
ヤバイ、そう思ったときには既に時遅し。人間業とは思えぬ素早さで結依の正面まで迫
った黒い仮面の男子が、仮面と同じ色をした刃のナイフを胸に突き刺していた。
――私………死ぬの………?――