青空。
どこまでも続く天への道を二人で飛ぶ。
傍らで輝く太陽神は、ふいに口を開いて告げる。
「護りたい、かわいい妹分がいる………よく、戦う前に言っていたよ」
「お兄ちゃんのコトかい?」
完全に結依と結合を果たした結果か、記憶は失われずに自分の記
憶のように振舞うジョーカー。彼女を見ずにまっすぐ、前を向いたまま
アポロンは口元に笑みを浮かべた。
「そう。悠はずっと妹分のことを案じていたよ…世界よりも、あの子の
笑顔が大事だ…なんてバカなことを言いながらね」
口調には蔑んだようなものが垣間見えたが、浮かべられている笑み
が思いのほか優しいことに気付いたジョーカーはアポロンの周りを器
用に旋回した。
「アポロンはお兄ちゃんのコト、好きだったんデショ?」
「………ふっ」
軽く微笑んで、自身の分身とも言える太陽を仰ぐ。
「昔のことだよ」
大人びた表情で、過去を語るアポロンの肩に小さな獣が誕生する。
そのか細い鳴き声と額の角でソレがクロノスだと気付いたジョーカー
は小さな星獣の頭を指先で撫でてやった。
嬉しそうに尾を振る姿が愛らしい。
――どこまでも美しい青空。
二人で飛ぶ。ふいに口をついて出たのは兄から貰った大切な歌。
「いつか僕が僕で失くなり 夢が夢で失くなる
その時きみはどこにいるだろう 僕を忘れてどこにいる
道化師の仮面をまとって 僕はどこに逝くのだろう」
地獄に堕ちた兄とは会えない。けれど記憶の中で何度でも会える
――この歌さえあれば、何度でも会うことができる。絶対に忘れたり
するものか、もう二度と。
紡がれる歌声にアポロンが微笑む。
無邪気に、そして嬉しそうに。
寂しがりやの太陽は純白の友達を得て。
初めて至福の笑みを浮かべるのです。
万物を愛し、育てる神として成長をはじめるのです。
御伽町に起きた事件。一人も覚えていないその事件は小さな神話。
少年が父親を打ち倒し、前へと進んでいく小さな神話。
天へと昇る二人の姿が小さくなって――
やがて、消える。
「それにしても…なんでこんなところにいたのかしら?
私たち、子供もいないのに」
「あぁ…けど、不思議だな。女の子が一人…いた気がするよ」
「あら、あなたも? 私も…すごく優しい娘がいた気がするの………」
「それに、フルートの上手い………娘だった気がするよ………」
世界に忘れられた一人の少女
「なに泣いてんだよ、ゆかり」
「分からない、分からないけど哀しいの」
「………おかしいな。お前が泣いてるとき…
いつも、誰かがそばにいたような気がするんだ。
昔っからお前はすぐ泣いてたのにな…
あいつはいつもなんてお前を………あいつ?」
「………わからない…優しい声が、いつも…そばにあったのに…ゆ………」
「ゆ…? わかんないけど…俺も…そう思う」
その心は微かに刻まれて
永久に輝く宝石になる――