「どうせ、お前もボクを裏切るんだろう?

 だから、優しく殺してあげるよ」

 しなやかな指が首にかかる。そのまま力を入れ

られれば骨が砕けるか、それとも――ゆっくりと絞

め殺されるのだろうか。心地良いとすら思える息苦

しさに、思わず結依は微笑んだ。

「ふふ…あのね」

 男にしては細い、アポロンの肩を抱く。

 触れられたことによって、一瞬だけ自信に満ちた笑

みが消えて動揺したかのような顔になる。

「歌謳いは、あなたじゃなくて違うものを選んだけれど。

 それは今に繋ぐためのもの。

 彼は今でもあなたのことを友達と思ってるし………」

「――知らないとでも思った? 知ってるよ。

 神月 悠がお前を選んだことなんて。父上を殺すため

の手段として地獄に堕ちたのもね。

 けど赦さない。ボクを裏切ったことを」

 低い声で吐かれるその言葉に、結依は仮面を外さない

ままアポロンの頭を優しく撫でる。

「寂しがりやの太陽は、純白の道化師と友達になりました。

 純白の道化師は言うのです、私はあなたの友達です、

あなたの世界へ連れて行ってください…と」

 童話を語るかのように告げられる言葉。

 頭を撫でられながら、背中を抱かれながら、アポロンは

頬を軽く染めて俯いた。

 口の中で何かを呟きながら首へと伸ばした手から力を

抜いていく。

「歌謳いに守られた私はあなたを守る。

 約束は永遠に、私はあなたと友達でいることを誓います」

「あ………え…えと…」

 言葉を探してしどろもどろになっているアポロンを抱き締め

て、結依は仮面の下で目を閉じた。寂しがりやの太陽は自分

を制御できるように成長して、こうして抱擁を求めていたのだ

ろう。ただ自分から口に出すのは気恥ずかしいだけで。

 本当は、いつでも、そのぬくもりが欲しかった。

「そ、それでいい。お前はボクの人形だからね」

 強がったつもりでも、その表情は子供そのもので。

 難しい言の葉を紡ぐその唇が、少しだけぎこちないのは嬉し

さから来るもので。

 素直じゃない。

 結依はクスリと笑んで、頭の奥から冷えていくような感触を――

再び、ジョーカーになろうと受け入れた。

「神薙結依、お前は今より最高神アポロンの切り札、ジョーカーになった」

 仮面の笑みは、結依のものではない。だが、その笑みは結依のもの。

 

 私はあなた。

 僕はキミ。

 

 あなたの誕生を、嬉しく思います。仮面の私。