純白の仮面は罪の証 穢れを知らぬその身を罰に汚して

 忘れることすらも罪なのだと咽び泣く

 

 歌が、始まる。

 聞き覚えのある歌にゼウスが双眸を見開いた。

「この音………なるほどな………!!」

 傍らに寄り添っていた獣が低く唸る。

 次第にか細くなっていくその鳴き声にアポロンが笑う。

「えぇ。父上を殺すにも、星獣クロノスがいては無理ですからね。

 あの男の歌を継承できる人間が欲しかったんですよ、ボクは」

「すべての時間が僕を棄てていく この命も この記憶も

 いずれは消えて 僕はどこへいくのだろう?」

 その音色は、ヒトから生まれ神へと響く。

 純白の仮面が震え、その体が宙を自由に舞う。

 血に塗れた舞台で歌うその姿は、さながら歌姫。

「父上、侮るからこうなるんですよ。

 クロノスはもう役に立たないでしょう?

 あなたの、生命を繋ぐ唯一の鎖は」

 ジョーカーの手が、クロノスの美しい毛並みに触れ、

その耳へと歌を囁く。

「深い絶望抱いて泣き叫ぶきみに安息をあげるから 瞳閉じて

 籠の中のか弱い幼子 この腕の中で美しく咲き乱れろ」

 高くいななくクロノス。

 その姿が砂へと変わり、崩れていく。

 神の身を守る、唯一の存在が朽ち果てていく。

 ヒトの生み出した絶望の歌。

 それはたった一人の少女のために作られた希望の歌。

 幾百、幾千、幾万、そして幾億の苦しみを味わう少女へ

と向けられた鎮魂歌。

 今となっては誰一人として知る人はいない青年の、愛の歌。

「あ…人間ふぜい…が!! アポロン、父に刃を向けるというのか!!」

 ゼウスの言葉にアポロンは満面の笑みを浮かべた。

 燃える髪が、揺れる。

「はい。ボクは父上よりも人間のほうが面白いと考えていますから」

 美しい、少年神の姿が掻き消える。

 陽炎――熱気がゼウスを包む。

「太陽神アポロンの力を味わってください」

 神殺し。

 最高神ゼウス、そのヒトにも似た姿が燃える。

 太陽の焔は皮膚を焦がし、その肉を焼いていく。

「お、おの………おのれ………」

 まだ息のあるゼウスへと伸ばした手。

 それは少年神の子供らしさ。

「父上、ボクはいつでもあなたたちに抱かれたかったんですよ」

 力の制御できない、子供らしさ。

 炎の柱が昇り、断末魔さえも掻き消す。

 残る熱気に人間である、ゆかりが咳き込んでいる。

「サヨナラです。父上」

 チリ一つ残さずに。

 最高神が消滅した。響き渡る音色が静寂に包まれた校内に響き渡る。