血塗れの結依を抱きとめていたアポロンの姿が
再び掻き消える。もう足に力が入らないのか、彼女
はその場に座り込んで血を吐きながら、耳障りな音
を発していた。
「………」
その横顔は何を想っているのか、ギリギリで生命を
繋いでいる彼女は何も言わず――否、何も言えない
のかもしれない。親友とまで想っていた相手に裏切ら
れ、今までのすべてを蹂躙されて。
――限界なのかもしれない。
躯も、心も。
「シャドゥ! いつまで寝てるのよ!」
罵声が響いて、シャドゥがその顔をあげる。
刹那。
「―――――!!!!」
結依の体がくの字に曲がる。
骨の折れる音を感じ、その耳に聞き、彼女は悲鳴すら
もあげられないまま床に叩きつけられた。生きているのが、
不思議なほどの大怪我を負った少女を見下すは二柱の神。
「人形勝負は我の勝利のようだな。アポロン」
ゼウスの言葉にアポロンは口元に笑みを浮かべ、真紅の
瞳の中心部を赤く燃やした。
「えぇ。
人形勝負は父上の勝利のようですね………人形勝負は」
クスクスと、笑い声が漏れる。
何を考えているか分からない息子にゼウスは怪訝な顔を
しながらも、その指示をシャドゥへと与えた。
「シャドゥ。その愚かな人形の仮面を砕くがよい」
言葉もなしに頷くシャドゥ。足音が、近づく。
「やっと、神月くん………」
ゆかりが笑う。その笑みは人間とは思えぬほど邪悪で――
疲れ果てた結依はもう、何も言わなかった。ただ―――――
「愚かな人形の娘。恨むならば太陽神を恨むのだな」
血に染まりきった、純白の仮面を砕かれると同時にソレは
口を吐いて出た。意志とは、関係なしに。
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁあぁぁぁああぁぁ!!!!!」
命繋ぐ、仮面砕けて少女散る。