顔全体のイメージとしては――おっとり、が似合う。

 二重ではあるがタレ目なせいか、気が強そうにはとても

見えない。しかし、それを隠すかのように塗りたくられた派

手な色のアイライン。目の周囲だけではない、彼女の化粧

の全ては派手だった。

 髪こそは黒いものの、ほかは街を練り歩くギャルと呼ばれ

る存在そのもの。

「………なんだい、キミ」

 首をかしげるジョーカー。その背後でゼウスは笑い声を上

げながら、懐から何かを取り出す。それはゼウスの手の上

で小さな鳴き声をあげて、その姿を変えていく。

「記憶の消去はそこまで進んでいるようだな!

 分からないのか? 神薙結依。それはお主の――」

 一角獣――ファンタジーであればユニコーンと呼ばれるそ

れがゼウスに傍らに寄り添い、高くいななく。ビリビリと震え

る空気の中で、ジョーカーは霧の覆われていた森に光が差

し込むかのごとく、遠くまで見通せるようになった自分の記

憶に驚愕した。

 ゼウスの指先がジョーカーの仮面を、シャドゥの額を指差す。

 太陽神の炎のような髪が揺らめいた。

 

「お主が今よりも幼き頃の姿!」

 

「………思い出したくなかったのに………っ」

 か細い、声。

 足を震わせ、その場に座り込む彼女はすでに“ジョーカー”

ではなく、“神薙結依”気弱そうな顔をした高校生でしかなかった。

 その手を血で染めた猟奇殺人犯。

 それが自分。とうとう自分すらもその手にかけて殺した。

 様々な言葉が、想いが脳裏を駆け巡る。頭を抱えている彼

女を眺めていたアポロンはゼウスの連れているユニコーンに

よく似た獣へと目をやり、軽く爪を噛んだ。

「私…私、こんなに人を殺したの? 

 ゆかりを、ただゆかりを助けたかっただけなのに。

 お父さんやお母さんまで………どうして、どうして気付かな

かったの…私は…私は…」

 震える。

 それはまるで臆病な仔犬のように。

 ――もう戦えない、それはまさに今の彼女のために用意された言葉。