「――で? ナニ?」
躍りかかったシャドゥを横笛で凪いで、そのまま不自然なほど
に笑んでいる仮面をゼウスへと向ける。ジョーカーの声は心なしか、
無機質なモノに変わってきている気がした。
最高神への恐怖もなければ尊敬もない、ただの一般人と喋ってい
るような感覚のジョーカーにひるむことなく、ゼウスは彼女を見下しな
がら口を開いた。
「お主は聞いていないだろう。
アポロンの策にはまった愚か者どもが手にする、その仮面の力を。
思い描く力を与えられる代償に、記憶と死を奪われる。
神の人形として永久に縛られる――それでもお主アポロンに組するか?」
ゼウスが告げる言葉にたいしてアポロンはクスクスと笑っている。
彼が喋る間も、シャドゥと交戦しているジョーカーにはその言葉の一言
すらも届いてないように思えそれがアポロンにはおかしかった。全ての
人間の祖を創造した神の言葉など、いまや誰が聞くというのか。
それに気付いていまさら消しさろうなどと子供じみたことをいう父を笑
う少年神は腹を抱えて笑いたい衝動に駆られていた。
「切り裂きエース。死神ジョーカー。二人でドコいく〜?」
二枚のカードがシャドゥのハサミを砕き、その手首を切り落す。落ち
た自分の手に気を取られた瞬間を読んでジョーカーが大きく足を踏み
出した。何もない空間を強く踏み締める足。
「愚かな――」
嘲笑う、最高神。
「そこがいいんですよ。人間は」
父とは違う嘲笑の笑みを浮かべる少年神。
銀色の横笛が音色を奏で、純白の仮面が笑う。
「シャドゥ! 負けたらぶっ殺すわよ!」
声が重なり、空間が歪む。
伸ばした腕がシャドゥの髪を鷲掴みにし、人間業とは思えないような動きで
その細い体を壁へと叩きつけた。
嫌な音がし、シャドゥが動かなくなる。
砕けた壁の破片が燃える。焦げた臭いが、頭の奥にある光景を隠していた。
砕けた、仮面の破片。垣間見えるシャドゥの素顔――
「父上、あなたは本当に」
――笑うその顔 残酷なる神 そのもの――
「――趣味が悪い」