血臭漂う美術室と、赤い絵の具で塗りたくられた絵。
二人の少女が対峙して――
「時間がないって言ってるのになぁ〜?」
邪魔しないでヨ――と告げながら、一気に距離を詰める。まったく反応で
きなかった少女は全身を強張らせて喉下に迫り来るカードを凝視していた。
笑顔の仮面が至近距離に迫って――刹那。
ジョーカーの体が大きく後方に跳んだ。それに少し遅れてつい先ほどまで
彼女が立っていた場所に数枚のカードが突き刺さった。そのカードの投げられ
た方向へと顔を向ける。
佇むは黒い仮面――黒い、泣き顔の仮面の少女。身にまとうはジョーカーと
同じすその短い着物。唯一違うのは色が白ではなく、夜の闇よりもずっと暗い
漆黒であるということ。少女は無言のまま一気にジョーカーへと近づいて、振り
上げたハサミを彼女の肩へと振り下ろす。
「なに、キミ?」
そのハサミを銀色の横笛で弾いて、彼女は黒い泣き顔の仮面の少女と距離
をとろうと飛び退く。
「邪魔しないで、って………言ったよねぇ?」
力強く床を蹴って、臨戦体勢になる。その向かいには泣き顔の仮面の少女。
「――シャドゥ、仕方ないわ。シャドゥ!! さっさと殺しなさい」
怒り顔の仮面の少女の言葉にシャドゥと呼ばれた泣き顔の仮面の少女が、ハ
サミを持ち変える。特徴的なもち方にジョーカーは首をかしげる。しかし、その横
笛の狙いは外さず――まっすぐにシャドゥの心臓を狙っていた。
「――ん?」
互いの動きが止まる。
笛とハサミが擦れあい、ギチギチと嫌な音を立てている。それぞれが向かい合
うようにして均衡した力が牽制しあっている。
「偶然だねぇ? 僕と標的が合うなんて…サァ」
だいぶ底の薄くなった下駄でシャドゥの足を薙ごうとするが、その足もまったく同
じ力で衝突して止まる。
「………なんだい、キミ?」
嫌な気分だ。
まるで――鏡と格闘しているようで、早く決着をつけたいのに。