太陽神――その響きにジョーカーは走りながら首をひねった。

 どこか、いつか、聞いたことがある。それはとてもおぼろげな記憶で

今思い出さなければ一生、忘れたままのような気すらした。

 しかし、それを思い出そうとしている間にも仮面の生徒たちは襲い掛

かってくる。黒い仮面を砕いて、一撃で仕留めるも疲労はたまっていく。

「急がないと、お前の友達は死んじゃうかもね」

「分かってるって〜の」

 躍りかかってきた仮面の生徒を薙ぎ倒し、彼女は先ほどよりも早く、は

やく走った。それはすでに走るというよりも飛ぶ、に近く地面に足も着いて

いなければせわしなく地面を蹴ることもなかった。

 それでも彼女はこの行為を走ると呼ぶだろう。

 友達を助けるために走るのだと言うだろう。

 その後ろ姿を眺めていたアポロンは口元に笑みを浮かべていた。

「も〜ウザいウザいってぇ〜の!」

 出迎える黒い仮面の生徒の集団に、ジョーカーは声を張り上げながら両手

を天井へと向けた。一見すれば何もないかのようなその場所に歪が生まれる。

「僕の邪魔するヤツみぃ〜んな死ぬといいよっ! 幸せになれるかもね♪」

 集団へと歪を投げつける。

 音もなく歪の中に消えていく仮面の生徒たち。静寂が廊下を包み、近づいて

きている存在の足音をより強く感じさせた。

「ん〜? ボス? ちゃっちゃと終わらせてゲームクリアしないとねぇ」

「ボクは見てるから。せいぜい頑張ってね」

 それだけを告げるとアポロンは一番近くの壁の中へと潜り込んで、姿を消す。

「しょ〜がないなぁ。僕一人でもだいじょーぶだしぃ、いっくよ♪」

 まっすぐに、向かってきた黒い仮面へと目を向ける。

「………ん〜?」

 その姿に、彼女は思わず首をかしげた。

「生徒じゃないジャン?」

 制服でもなければ教師の服でもない。

 朱色のエプロンをつけた仮面の女性。

 彼女は何も告げぬまま、その手に包丁を生み出した。

「ま、いっか♪」

 ジョーカーの手の中に銀色の横笛が生まれる。

「――コンテニューはナイからカクゴしてネ♪」

 

 違和感が、どこかに生まれて。

 心がざわついていた。