「ふ〜ん? キミが僕の上司ってやつぅ?」

 ふわり。ジョーカーの体が宙に舞う。それを仰いで少年神は燃え

上がるような真紅の髪を揺らした。

「そうだよ。ボクがお前の主人。お前はボクの人形」

 髪と同じ真紅の瞳が細められる。顔自体は整っているというのに、

浮かべられた笑みの意地悪さから思わず性格が悪そう――と思ってしまう。

 あながち間違ってないだろう――そんなことを思いながら、ジョーカーは足

を天井へとつけて上下逆さのまま口を開いた。

「あんさ〜? 僕、急ぐからさぁ〜走りながら説明してくれない?

 ワッケわかんないヨ」

 言いながら、足が動く。天井を走る少女と廊下を歩く少年神。二人の姿が血

みどろの廊下の奥へと消えていく。

 残されたのは砕け散った頭蓋と、そのパーツだけ――

「んでぇ? どうして僕たちはこんな目に遭ってるわけぇ?」

 襲い来る仮面の生徒たちを薙ぎ払いながらジョーカーは問う。その間にも懐

から出したカードが仮面を砕き、屍を積み重ねている。

「最高神ゼウスの仕業だよ。彼は人間を根絶やしにして新しい世界を創るつもり

なんだよ。そのために邪魔な切り札候補のお前を殺しにこの街に来たってところ」

「僕、生きてるし?」

「当然でしょ。何のためにボクが人間の姿なんかをしてたと思う?」

 彼の言葉にジョーカーはマジマジと少年神の姿を見る。確かに人間ではない――

人間はあのように極端に尖った長い耳など持たないし、何よりもギリシャ神話などに

出てきそうな服装で登校したりはしない。

「すべてはボクが最高神を倒すため。そのためにお前を利用させてもらうから

 せいぜい働けよ。ボクの人形」

 淡い、空色の服が翻って少年神は迫ってきた仮面の生徒を炎の息吹で焼き殺す。

 肉が焦げた臭いが充満し、鼻を摘みたくなったがソレよりも先に聞くべきことがある。

「ところで、キミの名前は?」

「まだ、教える必要はないと思うけどね…まぁいい。かわいい人形のために」

 少年神はその手から紅蓮の炎を生み出し、近寄ってきている仮面の生徒たちへと投

げる。刹那、彼らは骨すらも残さずに燃え尽きていた。残ったのは黒い仮面だけ、装着

していた存在なんて始めからなかったかのように。

 少年神は炎を帯びた指先をジョーカーへと向ける。

 開かれる唇は人間にしては妖艶すぎる――素直にそう思った。

 

「ボクは太陽神アポロン。切り札を管理する者」