足首が冷たい沼に呑み込まれ、その冷たさが肌を刺す。

「いや、いや、いや!!! 私は、ゆかりを――」

「黙れよ…相変わらず、うるせぇなぁ…ウゼェよ」

 幼馴染の言葉に言葉をなくす。

 震える指先は恐怖に支配され、何もできずにいた。

「死ね。さっさと死ね」

 冷たい言葉。冷たい響き。

 胸の奥で何かが冷え切っていくのがわかる――

「ねぇ………或斗」

「話し掛けんな。ウゼェ」

「天国って、本当にあるのかな?」

「ハァ?」

 体を失った頭部が、その双眸を見開く。

 下半身が沼に呑み込まれた、彼女の傍に佇む赤い髪の少年――

「な、なんで…テメェが」

 その少年へと目を向けて、ガラガラに掠れた声でまくし立てるように叫ぶ。

「テメェが来てるなんて聞いてねぇ!! くそ、アイツ…ハメやがったな!!」

「ねぇ、或斗………」

 俯いた、顔。

 ゆっくりと、少しずつあげられていく。

「私――」

 赤い髪の少年の手が、彼女の黒い髪を撫でる。

 笑う唇は何か言葉を紡いでいるように見えた。

「或斗の言葉が本心なら迷わないよ」

 白い、仮面。

 笑みを浮かべた仮面の涙の刻印が淡く輝いて、彼女の赤く染まった衣を再び元

の白さへと戻す。まるで、彼女の時間の経過をリセットしたかのように。

「或斗は嘘、つけないよね。いつもいつも本心で――」

 沼が、弾ける。

 飛び散るドロ、壁に叩きつけられるは千切れた彼の手足と胴体。

    目障り 邪魔  をする キミ 或斗 を  殺す ゆるさない

 二つの声が同時に響き渡る。

「や、めろ…やめろ、幼馴染のオレを殺す気か!!?」

 とても明るい笑顔。

 明るい声―先ほどまでの彼女の姿が分からなくなるほどの底抜けに明るい声。

「うん♪」

 青白い手が、アルトの髪を引っ掴む。

 宙吊りになった彼の頭部を―――

「ばいばぁい♪ 天国があったら教えてね〜」

 壁に思い切り叩きつける。

 潰れる音、砕ける音、足元に飛び出た眼球が転がるのが見えた。

 完全に黙った肉片に興味を示す様子もなく、彼女は背後に立つ少年へと振り返った。