切り裂かれた傷口から血が噴き出る。ソレを全身に浴びながら、彼女はくぐもった

笑い声を漏らしていた。大量の血液を噴出しながら壁に背を預ける少女。

 それは力を失って倒れるたぐいではなく、自らの意思で寄りかかっていた。

 まるで、立つことすら面倒だとでも言わんばかりに。

「ん? 死なないのかい」

 ジョーカーの言葉に少女は黒い仮面に怒りの表情を浮かべた。

「アンタが死ねばいいのよ。ほら、早く来なさい!」

 少女の力強い――乱暴な声が響き渡る。それと同時に真っ赤に染まった壁の中央が

不自然に裂けて、そこから褐色の腕が伸びる。

「アルト、アタシはゼウスに報告があるからアンタが始末してよね」

「あぁ………」

 低い声で返事をするアルトという名の黒い仮面の少年。その声には感情といったもの

は感じられず、目前にいる少女と比べると人形――といった表現が合っている気すらした。

「あ〜あぁ。ザコばっか増やさないでくれるぅ? 僕、急いでるの」

 横笛を唇にあてがう。奏でられる旋律に亀裂の入った壁の破片が宙へと浮かび上がる。

「フン。苦しめばいいさ! アンタなんて、散々苦しんで死ねばいい!」

 吐き棄てるように声を張り上げて、黒い仮面の少女の姿が消える。血と死の臭いが充満

する廊下に退治する白い仮面のジョーカーと黒い仮面のアルト。

 二人は言葉を交えるわけでもなく、ただ笛の音だけを響かせて距離を詰める。

 人形らしいといえども、先ほどから相手をしていた仮面の生徒たちとは違って体術の心得

があるらしい。隙のない動きで距離を詰め、そのまま鋭い蹴りをジョーカーの足元目掛けて

放つ。

「足を狙ったって僕の機動性は落ちないよぅ?」

 ふわり、と宙に舞ってその蹴りをかわす。彼女が飛び退くと同時に彼女がいた場所――今

はアルトの足が出されている場所へと壁の破片が降り注ぐ。まるでそれは銃弾のように彼の

足を貫くと血液を付着させたまま、床へと転がった。

「………あぁ」

 低い声で頷いて、彼は血塗れになった自分の足へと視線を落とす。

「ヨソミしてっとぉ〜」

 袖の中から一枚のカードを取り出す。

「サクっとゲームオーバーだよん」

 中央に王のイラストが描かれたカード。それを掲げて彼女は楽しそうに叫んだ。

「崩壊キング〜!」

 掲げられたカードが淡い光を帯び、まっすぐにアルトへと向かっていく。

「さっさとバイバイ………え?」

 ジョーカーの言葉が止まる。

 黒い仮面が、外されて素顔が見えた。見慣れた、顔。

「………ゆ………い………ど…う…して…………」

 途切れ途切れの言葉。それは彼女の行為を信じられないといった様子で――

「ゆ…い………おれ、なにが――」

 止まらないカードが、その言葉を止めた。