幾多の屍を築いたか。背後に積み重ねられる屍の山。
襲い来る、黒い仮面の生徒たちを打ち倒しながら進む。下駄の底が削れ、返り血で
白い衣が真紅に染まる。色素の薄い、青白い手には取れそうにもないほどの血の臭
いがこびり付いて、彼女の意識を支配していく。
「ザコばっかじゃ〜ん? ボス面ま〜だ〜?」
もう、数えるのも面倒なほどの数を打ち倒した。足元に転がる新しい屍を踏みつけて
彼女はひたすら歩く。その速さは決して早いようには見えなかったが、校内を徘徊して
いる黒い仮面の生徒たちよりはずっとはやかった。
ウロウロと、ただ彷徨うものよりも目的地を知っている足は速い――誰かが、言っていた。
「………ん?」
不意に、脳裏に過ぎる青年の姿。彼女は足を止めぬまま、歩きながらその姿をもう一度思
い描こうと天井を仰ぐ。白かった天井もいまや見る影がないほどのどす黒い赤で塗りたくられ
ている。その天井に思い浮かべられた青年――顔は二度と思い出せなかったが、不思議な
懐かしさが胸を支配した。
「なんだい………? ………頭が………」
頭の奥で痛みが走る。
それは痛みというよりも――耳鳴りにも似た不快感の塊にも思えた。
「つっ………」
仮面を抑えて、地面から足を離す。彼女の周囲には重力なんてモノが存在しないかのように、
彼女の体が宙に浮いて足を動かさぬまま、頭を抱えたまま前へと進む。
――まるで、それしか知らぬかのように。
「人が悩んでるのに邪魔するのかい? 空気読んでよ」
不自然なまでに笑んだ仮面の顔が、極端に細められて笑みを表現している目がそちらを向く。
床へ足をつけてその手には銀色の横笛を出現させる。彼女はすでに戦う意思で満ちていた。
「アンタの邪魔だったらいくらでもしてあげる」
「ふうん? 喋れるんだぁ?」
馬鹿にしたかのような呟きに、黒い仮面の少女は壁を思い切り叩く。叩かれた場所を中心に亀
裂が走り、パラパラと破片が床へと落ちていく。
「コワいコワい♪ んで――ダカラ、ナニ?」
告げながら、一瞬で距離を詰める。
若干反応が遅れた少女の喉下に、爪先をあてがい―――
「バイバイ♪」
一気に、横へと引いた。