静まり返った校舎内とはこうも不気味なものか。

 彼女は仮面をしていない状態の自分であれば入れなかったと思えるほどに、

おどろおどろしい雰囲気をかもし出している廊下を歩いていた。

 白い壁の所々に血がこびり付き、転がっている亡骸を避けながら足を進める。

 まるでゲームだ。

 彼女は笑みを浮かべた仮面を震わせ、こもった声で笑う。

 純白の衣の袖が揺れ、底の厚い下駄が床を叩く。

「土足で学校内に入れるなんて楽しいよねぇ? そうは思わないかい?」

 振り返り、背後を歩くもう一人へと声をかける。

 それはだらしなく開けられたままの口元からヨダレを垂らし、ニヤニヤと笑っていた。

「さて………キミは僕の知っている人かい? それとも、ただの他人かい?」

 下駄の底で、床を打ち鳴らす。舞踏にも見えるそれは独特なステップを踏んで、口元

にあてがった銀色の笛で音色を奏でる。曲名のない楽曲――それを耳にした同じ学校

の制服を着た女子は染めすぎて痛んだ髪を振り乱しながら、右手に持ったモップを振り

かぶり躍りかかる。

「…見覚えナシ♪ 他人決定、ばいばーい」

 はしゃぐような声が響き渡ると同時に周囲に音符の形をしたモノが生まれ、次々に見知

らぬ女子へと突進していく。それらの直撃を避けることのできなかった彼女は呻き声を上

げながら、なおもモップを振りかぶってジョーカーへと躍りかかろうと床を蹴る。

「ん…? だからぁ〜ばいばぁ〜いダヨ?」

 足を止め、笛を下ろす。

 軸足に力を込めて、彼女は仮面をする前の自分自身が望んでいた能力を脳内に思い描

いた。自分にはできなかったことを成し遂げる――憧れを、かたちに。

「ぐえっ…!!!」

 底の厚い下駄が、見知らぬ女子の脇腹に食い込む。

 低い呻き声をあげて体をくの字に曲げる少女。それを見逃すはずもなく、彼女は袖の中か

ら一枚のカードを取り出す。

「新技どうだーい? ――死神ジョーカー〜♪」

 ジョーカーのカードを高く掲げる。

 それはただのカードであるにも関わらず、周囲に黒い煙を纏ってうずくまっている少女を包み

込む。頭だけを出している状態の彼女を見下ろして、ジョーカーは肩を揺らして笑った。

「はい、サヨウナラ」

 ぐちゃっ――何かが潰れる、嫌な音が響く。

 赤い水溜りが増え、ボールのように何かが転がっていった。

 彼女は振り返ることなく前へ進んでいく。校内はすでに血の臭いが充満していた――