「殺ス」
薄紅色の花びらは舞い落ちた。
乾いた土に積み重ねられては沈んでいく。
さながら自然が織り成す絨毯。
踏みしめ、佇む少女は誰かを待つ。
小さく吐かれた溜息はういういしさに溶ける。
春の陽光。
その下で少女は純な感情を向けていた。
胸には真新しい鞄を抱き。
幼さを残す肢体を包む真新しい学生服。
どこか緊張した面持ち。
誰かのために用意された特別なカオ。
何度目かの溜息が少女の唇を通り過ぎた頃。
「お待たせ」
聞こえた声に少女は微笑む。
安堵に胸を下ろして微笑む。
「ううん。ぜんぜん待ってないよ」
差し出されたる笑顔。
「そう? ありがと」
用意された言葉に少年が笑った。
「一緒に入れてよかったね」
差し伸べられた手と言葉。
特別同士は頬を赤らめる。
「勉強したもん」
手をとって答える少女。
「そうだったね」
笑う少年。
二人の足が桜並木を進む。
笑顔と笑い声が絶えない。
そんなどこにでもある恋物語。
そして あってはならない物語
「ボクね
言わないといけないことが
あるんだ」
雨が降る夜。
少年は少女を呼び出した。
「ねえ」
桜の幹に少女の背を押し付け。
「ボクのこと好きだよね?」
壊れた笑顔で問う。
「好きだよ……けど、なんで……?」
怯える少女には目もくれず。
少年は口が裂けるほどに笑った。
「ボクも君が大好き。
だからね……――――」
優しい笑顔が消える。
「 サ ク ラ ち ゃ ん … … … … 」
さくら ちる。
薄れていく意識の中。
少年は笑っていた。
朦朧とする意識。
全身に響く衝撃。
打ちつけられる音。
濡れた感触。
感じたことのない痛み。
体で感じる熱。
冷たい土の味。
「 あ い し て る よ 」
土が降る。
肌に土が当たる。
「 ず っ と 一 緒 に い よ う ね 」
深い愛の言葉。
奈落の求婚。
目に土が入った。
痛みを感じるよりも前。
体が体温を失っていくのが分かった。
もう動けない。
本能が告げる。
生きようともがく場所が死んだ。
短い時。
少女は笑い続ける少年へと手を伸ばす。
「約束 ずっと 一緒 この 桜の 木の 下 で」
記憶はそこで途切れていた。
次に目を開けた時は彷徨っていた。
闇から目覚めたと思えば、闇に迷っていた。
原因は?
彼が、こなかった。
約束の場所に彼はなく。
荊の柩が共に横たわっていた。
約束を破った憎い人。
ソレは憎悪に満ちた眼差しを向けた。
這いずる土を握り締め、死肉を切り裂く。
こんなにも深い傷。
赤い血は溢れそうにもない。
→NEXT