―復讐―

 

 荊の蔓は止まることなく伸びつづける。

 ソレは憎悪に瞬く双眸を見開いて、その唇から呪いの言葉を囁く。

「私を裏切ったあなたを殺すために、待っていた。

 あの桜の木の下に埋めるために、待っていた。

 やっと思い出した。私の彷徨う理由」

 荊の蔓を握り締め、復讐心満ち溢れる顔で少年を睨む。

 次第に異形と化す少年とは違い、少女はその姿を保ったまま――

「あの桜の木に咲く桜を、あなたの血の色に染めよう。

 亡骸は根元に埋まる、私のそばに……」

 ソレは、嘲笑う。

 

「約束したでしょう?」

 

「……モウ、死ンデルノニ? ボクモ……」

 少年へと近づいて、ソレは笑ったまま告げる。

「あなたを殺さないと私が浮かばれないの」

 

――ズット、ハナサナイ――

 

 荊の蔓が、少年へと絡みつく。

 その体をきつく締め付け、棘が肉へと食い込む。

 共に彷徨うものとして痛みを感じないことくらい知っている。

 どうすれば――死ぬのかも、思い出した。

 ようやくかみ合った歯車。

 廻り始めれば止まらない。

 

「ずっと愛してるから。謝罪の言葉はいらない。

 ずっと彷徨って…私のいない世界で私を探しつづけて」

 

 柩のふたが開く。

 今度は――こちらが、縛り付ける番。

 ソレは心底楽しそうに笑った。

 

 ――もう、彷徨うことはないのだと確信した。